05.幅広い乳酸菌生成エキスの機能
乳酸菌生成エキスの摂取効果は、その他さまざまな方面から研究されています。その根本には、やはり「腸管免疫系の調節」、「腸内細菌バランスの調節」、およびそれらから引き起こされる「腸内環境の改善」効果があると考えられますが、興味深い事例を2例ほど紹介します。
インドキシル硫酸は尿毒症物質の一つであり、血管内皮障害や糸球体硬化の促進に関与するものと考えられています。維持透析患者における乳酸菌生成エキス摂取による血中インドキシル硫酸およびその他の因子への影響を検討したところ、血中インドキシル硫酸および血中尿素窒素(BUN)、血中無機リン(P)値に低下が認められました。
これらの事象から乳酸菌生成エキスの摂取により、腸管における尿毒素の産生を低下していることが考えられます。食事で取り込まれたタンパク質は、腸管内で加水分解されトリプトファンが生成されます。このトリプトファンは、一部の腸内細菌によってインドキシル硫酸の前駆物質であるインドールへと変換されます。「乳酸菌生成エキス」の摂取により、腸内細菌のバランスがととのい、インドールの産生が抑制されている可能性が考えられます。また、血中BUN値は、タンパク質摂取量、タンパク質代謝量、腎機能の3因子によって規定されることから、維持透析患者におけるタンパク質代謝を改善している可能性も考えられます。
近年、「乳酸菌生成エキス」は歯科分野でも広く利用されるようにな ってきました。その基本的概念としては、唾液の機能向上にあると考えられています。唾液には、消化作用はもちろんのこと、その他様々な機能がありますが、口腔内環境を主に考えた場合、pH緩衝作用と抗菌作用があげられます。「血液の質」 が 「唾液の質」 に大きく関わると考えられており、血液の質を左右する腸内環境をととのえることは、重要であります。「乳酸菌生成エキス」摂取による口腔内細菌の変化を調べると、レンサ球菌の一種で虫歯の原因菌のひとつであるミュータンス菌数の減少が確認されます。「乳酸菌生成エキス」の摂取は口腔内細菌量のコントロールを可能にして、毎日の口腔ケアへの応用も可能であることがわかります。
以上のように、「乳酸菌生成エキス」の摂取は、様々な効果を発揮します。腸管免疫系の調節にはじまり、腸内細菌叢の変化誘導、アレルギー疾患の改善や大腸ガンの発生抑制効果などの臨床的観点からもその有用性は示されています。また、腸管機能とは遠い肌質や腎不全進展因子、口腔内環境へも影響することがわかってきました。おそらく共通して起こることは、免疫系の調節作用と腸内細菌バランスの調節による腸内環境の改善だと考えられます。肌質や腎不全進展因子、口腔内環境の事例は、「腸管の機能の健全さが全身の健全さにつながる」 ということを改めて実感させられます。
腸内環境は超複雑系で成り立っています。我々ヒトの細胞だけでは、語ることのできない無数の微生物との共生という小宇宙を形成しています。腸管細胞と腸内細菌との相互関係とさらに腸管免疫が有機的に相互に関わり合ってはじめて腸管の機能は、発揮されるものと考えられます。そのすべての場面に「乳酸菌生成エキス」は絡んでくるはずです。「乳酸菌生成エキス」は非常に多様な成分から成り立っています。様々な微量な成分が、個々のターゲットに作用し合ってはじめて、表現系として現れてくるような印象です。一つ一つの作用は、微弱でも代謝というシグナル増幅経路をへて機能が発揮されると考えています。