第7章 腸のはたらき
免疫とは
免疫とは、病気を防いだり、病気を治そうとしたりする働きのことです。「感染からの防衛」、「健康維持と増進」、「老化と病気の予防」が免疫の主な働きです。免疫力を一言であらわすならば、「生きる力」、人が健康に生きるためのシステムが免疫だと考えていただくとわかりやすいでしょう。
腸が免疫力の7割を決めている
この生きる力を司るのは、主に腸です。私たちの免疫力のおよそ70%が腸でつくられています。つまり、人体において最大の免疫器官が腸なのです。
では、いったいなぜ、腸にこれほどの免疫機能が集中しているのでしょうか。口から肛門までは、1本の長い「消化管」でつながっています。わかりやすく表現するならば、「ちくわ」にたとえられるでしょう。ちくわの中心をとおる空洞は、ちくわの一部のようであり、ちくわの外部でもあります。つまり消化管は、体内にありながら外部と直結しているという意味で「内なる外」と表現されます。生命維持に欠かせない栄養素や水分を口から摂取する一方で、同時に病原体も運びこまれます。「清濁併せ呑む」という表現がありますが、消化管はまさに薬も毒もみんな飲み込んでいます。その門番として免疫機能が腸に集中しているのです。
免疫の機能は、自己と非自己の認識から
免疫機能の初動は、「自分であるか否か」つまり「自己」と「非自己」を選別することに始まります。「自己」であれば許し、「非自己」であれば攻撃します。食べたり飲んだりしたものも、腸にとっては外から侵入してきた非自己です。消化管は、非自己が絶えず入ってくる場であり、非自己が体内へ侵入するのを防ぐバリアーとして働きます。
バリアーが完璧すぎれば、自身の生存にとって有益な食品成分を利用することができません。ですから消化管は、自身にとって有益と判断すれば、これを選別して受け入れます。これを経口免疫寛容と言い、腸管免疫の最も重要な働きといっても過言ではありません。
免疫反応の起点「パイエル板」
腸で多くの免疫の働きを担っているのが、小腸下部の回腸にある「パイエル板」という組織です。「パイエル板」は小腸の絨毛の間に存在するリンパ小節が集合した腸管特有の免疫組織です。下画像の平らな状態の部分で、そのうえには薄い粘液があり、病原菌をそのまま細胞内に取り込みます。
その最も外側に「M細胞(microfold cell)」という特殊化した細胞を持ち、この細胞が腸管での免疫応答の起点となります。腸管での免疫応答の流れは以下の通りです。
- ①M細胞が細菌を捕獲し、細胞の中に取り込みます。
- ②M細胞の直下には樹状細胞(マクロファージの仲間)がいて、M細胞から細菌を受け取って分解・断片化して、
- ③ヘルパーT細胞へ抗原断片を提示します。
- ④するとヘルパーT細胞は活性化され、B細胞に「抗体をつくれ」と指令を送り、B細胞が抗体を作り出します。
- ⑤抗体の一部は体内へ、残りは腸管粘膜へ分泌されて、細菌の体内侵入(感染)や細菌の毒素を中和したりします。
腸内細菌と腸管免疫
このように、腸の中にあるM細胞などの働きによって病原菌が退治されているわけですが、これらの免疫細胞と深く関わっているのが腸内細菌です。200種、100兆個以上の腸内細菌と免疫細胞がタッグを組んで外敵から身を守っているのです。
たとえば、乳酸菌が増えると免疫力が増強されることはよく知られています。乳酸菌の細胞壁に強力な免疫増強因子があって、それが腸の上皮細胞間のTリンパ球や粘膜固有層のBリンパ球などの免疫細胞を刺激していることがわかっています。
免疫力の高め方は簡単
免疫力に腸内細菌が深く関わっているわけですから、免疫力を高めることは簡単です。腸内細菌の種類(多様性)と数を増やせばよいのです。腸内細菌の餌である穀類や野菜類、豆類、果物類などの植物性食品を摂取することです。発酵食品もいいでしょう。『乳酸菌生成エキス』も効果的です。
逆に、食品中の防腐剤や添加物は腸内細菌を弱らせますので、これらの成分が多量に含まれている食品はさけましょう。
免疫力、残りの30%は心
私たちのからだの免疫力は、腸で7割決まるのですが、残りの3割は、「心」(主に自律神経)が決めています。笑って楽しく生活しましょう。自然と親しみましょう。適度に運動しましょう。前向きな思考をしましょう。こんな簡単なことで免疫力は高まります。腸と心、どちらの健康も意識して過ごすことが大切です。
許すことも大事
さて、繰り返しになりますが、免疫機能のはじまりは、自己と非自己の選別にあります。腸には食べ物として大量の非自己が入ってきます。非自己だからといって、すべてを排除してしまっては栄養すら摂れません。そこで「経口免疫寛容」と言って、自身にとって有益なものを選別して受け入れます。外敵から防御するのも重要ですが、この許す行為も免疫の大きな役割の一つで、食品によるアレルギーを抑える仕組みといえます。
この重要な機能に腸内細菌は不可欠な存在なのです。
腸内細菌の免疫での役割
腸内細菌が存在しない無菌マウスと通常マウス(腸内細菌あり)を比較すると、無菌マウスは消化できない物質がたまることで盲腸がかなり肥大し、腸の最大の免疫組織であるパイエル板の発達もなく、リンパ球の数や種類も違い、抗体を作る細胞も少ない、という特徴がみられます。また、経口免疫寛容も働きにくく、腸内細菌は免疫の発達や機能に深く関係していることがわかります。
心強い門番lgA(アイ・ジー・エー)
腸の上皮細胞の表面には粘液があります。この粘液には、消化された栄養素にまぎれて病原体が体内に侵入しないように殺菌物質やウイルスを不活化する物質が含まれています。また「lgA抗体」という免疫物質も大量に存在しています。
抗体とは、特定の非自己物質にくっついて、その異物を排除する分子のこと。つまり、異物を退治するための武器です。私たちの免疫は、どんな異物に対してもぴったりの抗体を作りだすことができます。これまで、lgA抗体は腸粘膜の中にあって、進入してくる病原体を殺す物質だと考えられてきました。
しかし、最近の研究で、どの細菌をすまわせ、どの細菌を排除するのか、それを決めているのがlgA抗体だということがわかってきたのです。
腸内細菌と腸管免疫の双方向な関わり
これまで、よい腸内細菌バランスが腸管免疫系を活性化し、健康につながることは知られていましたが、この逆の流れについてはよく分かっていませんでした。ところが、最近の研究で、腸管免疫系からもよい腸内細菌バランスを積極的に維持していることがわかってきています。
つまり、腸内細菌と腸管免疫系とは、お互いに関係しあう双方向のやりとりがあり、それで健康が保たれているということです。
食品との関わり
日頃摂取する食品成分により腸内細菌は変動します。偏った食事をしているとその食品成分に特化した細菌種が幅をきかせて細菌バランスを乱す原因になります。
一方、腸内細菌を介して、あるいは直接lgA抗体の産生や他の免疫機能を調節してくれる食品成分もあります(大麦などの食物繊維βグルカンやポリフェノールなど)。『乳酸菌生成エキス』もそのような食品成分の一つです。腸管免疫や腸内細菌に直接あるいは間接的に働きかけ、腸内環境を健全に維持します。
我々の細胞(免疫細胞)―腸内細菌―普段の食事の3つがそろって健全な免疫機能が発揮されるわけです。
命の回数券「テロメア」の話
人間の細胞の寿命は、遺伝子「テロメア」によって決められています。この「テロメア」は、別名“寿命の回数券”ともいわれています。このテロメアは生まれた時は、約1万塩基あるのですが、これが5000 塩基になると人間は死んでしまうことがわかっています。回数券は使い方が荒ければすぐなくなりますが、テロメアも同じです。身体に無理させて生きていけばどんどんテロメアは短くなります。主にテロメアを減らしているのは「活性酸素」です。この活性酸素を発生させないためには腸内環境をととのえ、免疫力を上げることが何よりも大切です。