なぜ冷え性が怖いのか?
「血流の悪さ」が「冷え性」をつくる
そもそも「冷え」は「血流の悪さ」と大きく関連しています。
血液は常に全身をめぐり、全身の細胞に、酸素や栄養分を送っています。細胞はこれを使って、タンパク質の合成や分解、代謝を行って生命を維持しています。このときに熱が生まれ、血流によって全身に運ばれることで、体は温度を保っています。
また、代謝によって生まれた老廃物などは、再び血液に乗って運ばれ、排出されます。
これが健全な状態です。
それが、なんらかの理由によって血液が十分に巡らず、血流が滞るようになったら、体はどうなるのでしょうか?
酸素や栄養が届かなくなるため、代謝が進まず、熱も生まれずで、体の温度はどんどん下がります。老廃物も運び出されないので、血管は詰まりがちになり、ますます血流は悪くなります。それによって体が冷えていくのです。
とくに血流が行きわたりにくい体の末端や手足は冷えやすくなるわけです。 実際、冷えの症状を訴えて来院する患者さんの下肢は、本当に氷のようにつめたいです。
また、血流の悪化より体温が下がると、体の中にある脂肪細胞が凝固しはじめます。肉料理などを作った鍋を冷蔵庫にしまっておくと、冷えて白く固まった状態になりますね。同じことが体内でも起こります。体の中の脂肪が固まりだし血管の内側に付着したりして、さらに血管を圧迫するため、血流の悪化はもっと進んでしまいます。
冷えて、「酵素」が働かなくなると怖いことに・・・
特に怖いのは、冷えによって、代謝や免疫などにかかわる大切な「酵素」がつくり出せなくなることです。酵素はタンパク質からできています。冷えることでタンパク質の合成自体が進まなくなるので、当然、酵素も作れません。加えて、すでにできている酵素の働きも鈍くなります。体温が1℃下がっただけで反応速度が半分になってしまう酵素さえあります。
酵素にはさまざまな種類がありますが、そのなかには、「体内に絶えずできる異常な遺伝子(例えばガン細胞をつくり出す遺伝子)を修復する力」をもった「遺伝子修復酵素」(右下イラスト参照)もあります。
私たちの体は、たとえ良い状態にあっても、遺伝子に傷が入り、のちにガン細胞に成長する可能性があるものが毎日つくられています。健康で正常な状態であれば、この遺伝子修復酵素がきちんと修繕し、悪化しないように整えてくれます。
ところが、冷えによってこの酵素が活躍してくれなくなったとしたら、どうなるでしょうか。そもそも、遺伝子修復酵素がフル回転して活躍しても、毎日各細胞ごとに1個は修復しきれないものが残ってしまうといわれています。しかも人の体内には、約37兆個も細胞があるのです・・・
けっして脅かしているわけではありません。冷えが怖いのは、このように酵素の働きが悪くなることで、多くの重大疾患に結びつく可能性があることなのです。「たかが、冷え性」とあなどってはいけません。
逆に言えば、体温が適正であれば、ある程度の不調には立ち向かえるよう体はできているということ。だから、冷え性対策が大切なのです。
あなたは冷え性?
さて、あなたの体温は、平均してどのくらいですか? 「酵素」が最も活発に活動できるといわれている体温は、37~38℃。ですから、平均して36.5℃はあってほしいところです。
もし、36℃以下であれば、間違いなく冷えています。「冷え性」と思っていいでしょう。
血流をよくして冷えを解消する唯一の方法は、簡単です。「温めること」。 首を温め、足を温め、腰を温め、お腹を温める「温活習慣」を取り入れてみてください。
「体温は生まれつきなものでは?」と思っている人も多いようですが、そんなことはありません。生活が変わると体質も変化して、血流もよくなり、体温も徐々に上がっていきます。ただ、時間はある程度かかります。
改善の目安は、春夏秋冬の1年にするといいでしょう。温活習慣を1年経験すると、血流が改善されて、どう体が変化したか、よくなってきたかが、はっきりと実感でき、「温めることが当たり前」の自分になっているはずです。
温めることの恩恵は体だけではありません。人生そのものだって温かくなります。大げさだと思いますか? いいえ、本当のことです。これから少しずつお伝えしていきましょう。
コラム その① 「冷え」ってなんだろう?
冷えとは、簡単にいえば、手足など体の末端や、腰、背中などの部位に「不快な寒さや冷たさを感じること」をさします。気温や体温が何度であろうと、不快な寒さや冷たさを感じればその人は冷えた状態にあるといえます。
これはきわめて個人的な感覚なので、人と比較する必要はなく、自分が不快な寒さや冷たさを感じたら「自分は冷えている」もしくは「冷えつつある」と判断していいでしょう。
また、自覚がなくても、本来カラダが望む「活動しやすい温度」よりも、体温が低下してしまっているのも「冷えている」状態です。その原因が多少なりとも体内にあるため、寒いと感じる感覚やそこからくる不調を解決できないまま、抱え込んでいる状態ともいえます。
冷えは単に寒い風に当たったから寒いという一過性のものではなく、身体の中に入り込んだ存在です。
本来、私たちの体には、環境にあわせてうまく調整して、体温を一定に保つ能力があります。寒いところに行けば、体を一瞬緊張させ、熱を積極的に生み出し、体を温めようとします。熱すぎれば汗をかいて、体温を下げて調節します。
これらはすべて自律神経の働きなのですが、この自律神経は、生活習慣の乱れにとても弱く、ちょっとした変化でもくるってしまいます。
また、自律神経がいくら調節を頑張っても、それを超えて「冷え」の要因が入ってきてしまえば、体の機能は壊れ、「冷え」に対抗する力も失っていきます。
特に免疫と関連している腸がこうしたことで弱ってしまうと、病気を呼び込みやすくなります。腸を冷やさないことも意識しましょう。
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川嶋 朗(かわしま・あきら)先生
川嶋 朗(かわしま・あきら)先生
神奈川歯科大学特任教授。医学博士。自然治癒力を重視し、近代西洋医学と補完代替医療を組み合わせた「統合医療」の第一人者。西洋医学では内科、腎臓病、高血圧などが専門。冷え研究の第一人者でもあり、「自分の理想的な死とは何か」を考えるQOD(クオリティ・オブ・デス=死の質)の提唱者。『心もからだも「冷え」が万病のもと』(集英社新書)など著書多数。共同研究テーマ:腎臓病・自然医療。