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Dr.に聞く~脳腸コラム~

脳を鍛える―日常の中で記憶力アップ

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「脳番地」とは

『脳番地』という考え方をご存知ですか?脳では、脳細胞が場所ごとに役割をもって、それぞれ違う働きをしながら成長している、という私が提唱した考え方です。
 脳には1000億個を超える神経細胞が存在しています。このうち同じような働きをするいくつもの神経細胞たちが集まり、脳細胞集団(基地)を作っているのです。この基地を、私は「脳番地」と名付けました。

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脳番地は8つの種類に分けられる

この脳番地は、左脳・右脳の脳全体でそれぞれ60ずつ、合計120の脳番地に分けることができ、さらにそれぞれの機能ごとに8系統に分けられます。

8つの脳番地

①思考系脳番地
 人が何かを考えるときに深く関係する脳番地

②感情系脳番地
 喜怒哀楽などの感情を表現するときに関わる脳番地

③伝達系脳番地
 コミュニケーションを通じて意思疎通に関わる脳番地

④理解系脳番地
 与えられた情報を理解し、思考や行動に役立てる脳番地

⑤運動系脳番地
 体を動かすこと全般に関係する脳番地

⑥聴覚系脳番地
 耳で聞いたことを脳に集積させる脳番地

⑦視覚系脳番地
 目で見たことを脳に集積させる脳番地

⑧記憶系脳番地
 情報を蓄積したり、その情報を取りだすことに関係する脳番地

他の細胞と同様、脳の神経細胞も年々減っていき、年齢を重ねるごとに老化していきます。しかし、この脳の神経細胞は、いくつもの脳番地をつなぐことで、そのネットワークを強化していきます。
 つまり、たとえ老化によって脳細胞が減っても、脳番地同士を連携させていくことで、神経細胞同士のつながりが強くなり、脳は成長し続けるのです。

「記憶力」の低下とは

これら8つの脳番地の中で記憶の中枢を司るのは、脳の中心部の記憶系脳番地に位置する「海馬」という部位です。海馬はとてもデリケート。使わなければ怠け、使い過ぎれば疲弊します。
 記憶力が低下しているとき、脳の中では海馬が萎縮のサインを出しています。疲れて萎縮し、働きが低下している海馬に対して、無理に何かを覚えさせようとしても、それは海馬をいたずらに酷使するだけです。記憶力を鍛える上で、あまり効果的とは言えません。
また、海馬の萎縮が進み、海馬の機能が低下することで、認知症の症状が出現することがわかっています。

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「記憶力」対策の秘訣は思考・感情とのつながり

では、記憶力の低下を感じたとき、どうすればよいでしょうか?秘訣は、思考・感情とのつながりを活用することです。
 記憶には、「知識に関係する記憶」と「感情に関係する記憶」があります。前者は思考系脳番地と、後者は感情系脳番地と密接に関係しています。後者に関係する例を一つあげてみましょう。皆さんは、悲しい場面に直面したときに、過去に起きた悲しい記憶を急に思い出したという経験はないでしょうか?これがまさしく「感情に関係する記憶」です。これは、「悲しい」という感情で心が激しく揺さぶられた為に、悲しい感情に関係した類似の記憶が呼び戻されたというわけです。
 このように、記憶は他の脳番地と強く結びついています。記憶力を鍛えたければ、この記憶の仕組みの特徴を上手に使いましょう。記憶に密接する思考系・感情系の2つの脳番地を刺激し、海馬を中心とした記憶系脳番地を連動して働かせることで、記憶力は鍛えられます。つまり、思考や感情と結びつけながら覚えることで、より強く記憶され、低下した記憶力を再び蘇らせることができるのです。

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日常生活の中で「記憶力」アップ

記憶力を鍛える秘訣は、思考や感情と結びつけながら覚えること。このコツさえ踏まえれば、記憶力を鍛える機会は日常の中にもたくさんあります。

①スーパーは脳を鍛えるのに最適

普段、何気なく食材や日用品を買っているスーパーは脳を鍛えるのにもってこいの場所です。私のおすすめの方法は以下の通り。
 まず、スーパーに行くときに「買いものリスト」を持たず、食材を記憶してから出かけてみましょう。ただスーパーに行き、適当に商品を選ぶのではなく、冷蔵庫の中身を思い出しつつ、必要がどうかの判断をしながら買い物をしてみてください。この時、思考系脳番地と記憶系脳番地を使っています。
 また、スーパーに行ったら、ぜひ店内を2周するようにしてみてください。1周目でまず、商品の品定めをし、2周目から商品をカゴに入れましょう。
 人が初めて見たものを欲しいと感じるのは、視覚系と感情系の脳番地が刺激されているからです。1周目で目にする売り場では、視覚を通じて感情を大いに刺激されてください。店内2周目で商品を選ぶと、1周目で衝動的に欲しいと思った商品も本当に必要かじっくり考えるようになり、視覚系と感情系の脳番地に続いて、思考系脳番地も併せて活性化して、商品を選ぶための選択力がアップします。また、持ち運びやすい分量だけ購入するように心がけることで、運動系脳番地も鍛えられます。
 脳番地トレーニングと考えてスーパーでの買い物をすることは、記憶力も鍛えられ、なおかつ、お財布にも優しい。おすすめの方法です。

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②冷蔵庫で記憶系脳番地を鍛える

あなたは「冷蔵庫にあるものでカレーを作ってください」と言われたときに、「タマネギを買い足せば作れる」と答えられるでしょうか?それとも、「今、冷蔵庫に何があるかわからない」と答えてしまうでしょうか?後者の答えだった方はせっかくのチャンスを逃してしまっています。
 日々入れ替わる冷蔵庫の中身を常に把握しておくことは、日常的に、視覚系と記憶系の脳番地を使います。そして、冷蔵庫にあるものを思い出しながら献立を考えるとき、人は記憶系脳番地をフル回転させているのです。これは、記憶力を鍛えるにはとても良い機会です。ぜひ有効活用してください。

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このように、スーパーでの買い物や食材の管理など、日常の簡単なことでも記憶に関する脳番地を刺激し、記憶力を鍛えることができます。コツは思考や感情を結びつけながら覚えること。
 皆さんもぜひ、心がけてみてください。

■加藤 俊徳(かとう としのり)先生

 脳内科医、医学博士。加藤プラチナクリニック院長。 株式会社「脳の学校」代表。昭和大学客員教授。発達脳科学・MRI脳画像診断の専門家。脳番地トレーニングの提唱者。14歳の時に「脳を鍛える方法」を求めて医学部への進学を決意。1995年から2001年まで米ミネソタ大学放射線科でアルツハイマー病やMRI脳画像の研究に従事。ADHD、コミュニケーション障害など発達障害と関係する「海馬回旋遅滞症」を発見。現在、独自開発した加藤式MRI脳画像診断法を用いて脳診断し、薬だけに頼らない脳の治療を行う。InterFM 897「脳活性ラジオ Dr.加藤 脳の学校」のパーソナリティーを務める。
 『脳の強化書』(あさ出版),『片づけ脳』(自由国民社),『ADHDコンプレックスのための“脳番地トレーニング”』(大和出版),『1万人の脳を見た名医が教える すごい左利き』(ダイヤモンド社)など著書多数。